TMSNCUのブログ

「複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会」のブログです。

第6回学習会「安全保障問題と有権者意識」報告

6月5日に行いました第6回学習会の報告です。

 

■なぜ、いま「選挙」を知る必要があるのか

7月10日に、安保関連法採決以来の国政選挙である参議院選挙が行われます。

安倍首相は今回の選挙を、政権の「信を問う」選挙と位置づけました。

また、18歳選挙権の導入で、新たに有権者が約240万人増加します。

今回の選挙はいろいろな点から、今後の日本社会の分岐点となり得る選挙とも

考えられるのではないでしょうか。

しかしながら、私たちは「選挙」の実像や投票行動についての知識は

ほとんど持ち合わせていないと言えます。

日本のこれからを左右するであろう選挙を前に、

知の衣さえまとわずに佇んでいるという現状に危機感を感じ、

現代日本における選挙と政治過程の実証分析をご専門としていらっしゃる

愛知学院大学総合政策学部教授森正先生をお招きし

『安全保障問題と有権者意識』のタイトルでお話していただきました。

 

■学習会のポイント

 

まず、学習会では「政策」を考えるために必要な三つの視点が提示されました。

第一 私たちにとっての理想の政治は何かを考察する

第ニ 現状の政治について客観的に分析をする 

第三 理想と現状のギャップを埋めるための手段(政策)を考える

選挙や投票行動の研究は、このうち第二の現状分析にあたります。

 

政治家は何を訴え、有権者は1票に何を託したのか――もし、当選した

政治家が自分に託された票の意味を恣意的に解釈すると、

有権者の1票は雲散霧消してしまう、

だからこそ「データに基づく客観的な分析」が必要であるとのことです。

選挙・投票行動研究は現在の政治の是非や運動論そのものとは一線を画します。

しかし、現状を分析することによってのみ、スタートラインが明確になり、

ゴールへの正しい道すじが求められる、との指摘がありました。

つづいて、以下に学習会中、最も時間をかけて説明がなされ、また出席者の関心も高かった投票行動の決定要因について記します。

 

投票行動の決定要因には、大きく性別や年齢などの

「社会的属性」、「政党支持」、「争点態度」、「業績評価」などの

要因があります。

このうち、最も規定力が強いのは政党支持要因ですが、

政党支持とは異なる政党に投票する逸脱投票の存在や政党支持なし層の

動向いかんによっては、選挙結果が大きく変動します。

こうした変動をもたらすのが選挙における選挙における争点や

首相・政権に対する業績評価です。

 争点が投票行動に影響を与える争点態度投票の条件としては、

一般に以下の3つが挙げられています。

(1)争点の重要性:有権者の関心の有無

(2)争点の質:政策の違い・対立軸の有無

(3)有権者の意見分布

さまざまな争点のうち、ここでは争点を「生活争点 ⇔ 社会争点」、

「対立争点 ⇔ 合意争点」という軸で分類してみます(下図参照)。

有権者にとって関心が高いのは、景気や社会保障といった生活に身近な争点。

逆に安保問題、憲法問題などは社会争点と呼ばれ、過去の選挙でも

有権者の関心はあまり高くなかった、ということです(空間C)。

いっぽう、政党間であまり違いが生じない争点を合意争点と呼びます。

景気対策社会保障などは、どの党も「充実させる」という方向性が同じなので、

関心は高くても投票行動の決め手にはなりにくい(象限B)。

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つまり、有権者投票行動に大きく影響するのは、

有権者の関心が高い生活争点かつ政党間で意見の異なる対立争点(象限A)

ということになります。

関心の高い生活争点についてどのように対立軸を演出していくか、

対立は明確であってもこれまであまり関心が高くない社会争点について

どのように有権者の関心を引き出すか、が投票行動に決定的な

意味を持つということです。

裏を返せば象限Aに争点を設定できれば、有権者の1票が動く可能性が

あるということになります。

選挙戦で主導権を握るためには、まさに争点をどう設定するか、

アピールするかが重要なのです。

(過去の選挙における象限Aの例:2015年「郵政民営化」、

 1989年「消費税廃止」など)

上記の整理に沿って、先生が示された今現在の2016年参院選における争点の配置は

下図の通り。

最も有権者に働きかける力を持つ象限Aの空間が空白であるということです。

安保問題、憲法問題は象限C、景気対策や消費増税先送りは象限Bになります。

象限Aのゾーンに入る争点が設定されなければ、有権者投票行動

最も大きく影響するのは「政党支持」です。

つまり、投票行動に影響を与えうる争点(象限Aの部分)がないときには、

有権者は政党支持に沿った選択をするとのこと。

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次に、これも選挙結果に影響を与える業績評価投票を見てみます。

業績評価投票は、現職・与党に対する評価を表わす投票のことです。

現在は、2010年参議院選挙時に比べ、自民党支持率は高まっています。

また、内閣支持率は、一般に政党支持率に比べて大きく変動するものですが、

安保法制の審議が行われた2015年秋以降、支持率は回復し、

その変動も小さくなり、支持・不支持ともに固定化・2極化が

進んでいると考えられます。

 その他の投票行動に与える要因としては、近年の政治不信の高まりによる

投票率の低下や選挙制度があります。

参議院選挙の選挙制度は、小選挙区(1人区)と中選挙区(2~6人区)、

比例区が混合したもので、与党有利の制度となっています。

こうした一党優位の状況下では、野党による選挙協力

戦略として考えられます。

しかし、各党の政策協定が安保や憲法問題にとどまっていること、

現状では候補者を一本化させたにすぎないことに加え、

選挙後の政治運営の難しさは、これまでにすでに明らかです。

 

■学習会を終えて

データ分析に基づく研究のポイントは、「こうある」と「こうあるべき」との

違いと認識しました。私たち有権者は「政治家にはこうあってほしい」と

思っています。

ですが、政治家は「べき」だけでは動かない。

そう、政治家にとって大切なのは、やはり選挙で当選するかどうか。

選挙に「大義」があるかどうかは問題ではなく、

政治家は、自らの当選に有利なように争点を設定し選挙活動をするのです。

あたかも「大義」があるかのように、争点を設定した時点で選挙活動は始まり、

うまく土俵を築いた方が選挙戦を主導していくのです。

 近年、政党支持なし層の動きが注目されていますが、

有権者の30~40%を占める無党派層のうち20%近くは

政治に全く無関心で、投票に行かない(と思われる)層。

残りの政党支持なし層の人々の投票行動は、投票に影響を与えうる

明確な争点がない場合、選挙の勢いを強めることはあっても、

選挙を動かす(「山が動く」ような)ものにはなりづらいとのことです。

同様にメディアの報道体制が選挙結果を左右すると考えられがちですが、

これも投票行動の勢いを強めることはあっても、結果を変えるものでは

ないとのこと。

では、どのような時に「山が動く」ような選挙が起きるのか。

自分が支持する政党以外へ投票することを「逸脱投票」と呼ぶそうですが、

この逸脱投票がどれだけあるかがポイントとなりそうです。

逸脱投票は選挙の争点が有権者の関心と合致しながら、

政党間に違いがある場合におきます。「山が動く」選挙は、

日常に近く政党間の違いがはっきりとわかる争点の選挙で、

より有権者の支持が多い政策を掲げることに成功した政党が登場した時に

起きるのだと理解しました。

 1990年代から政治不信が高まり、民主党政権を経て、

今また政治不信が深化していると感じられます。

政治家と有権者の関心の乖離が原因でしょうか。

7月の参議院選挙、さらには今後の選挙に向けて私たちに必要なことは…。

 先生は18歳選挙権、それが選挙結果そのものを大きく変えることは

ないだろうとおっしゃいました。

ただし、「18歳選挙権」をきっかけに、子どもたちへの「主権者教育」が

進んでいくのなら、今後の選挙はゆっくりとではありながらも

大きく変化する可能性があるだろうともおっしゃいました。

翻って、私たち大人はこれまでどうであったのか?

「主権者」として選挙を考え争点を示し投票に結びつけてきたのか。

選挙を投票日だけ、あるいは、議会の中のものだけとしてきたのではないのか。

自分たちが関わる日常を「政治」とつなげて考えていくことが大切であり、

有権者の責任でもあると強く感じた学習会となりました。

 

 森正先生には、お忙しい中講師を引き受けて下さりありがとうございました。

大変有意義な学習会となりましたこと、感謝申し上げます。

ありがとうございました。