TMSNCUのブログ

「複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会」のブログです。

学習会報告:「21世紀の国際社会と安全保障をめぐる対抗構想」

2015年8月15日に開催したTMSNCU 第2回学習会を報告します。

この学習会では、国際情勢から安保体制を考えようということで

名古屋市立大学教授 伊藤恭彦先生(政治学)に

講師をお願いしました。

先生が用意してくださったテーマは

「21世紀の国際社会と安全保障をめぐる対抗構想」

1時間強の講義とそれに対する質疑応答ということで

学習会は進みました。

(1時間強の話の要点を抜き出し、わかりやすくするために対話形式にリライト

しました。)

 

 

今日は、伊藤先生から、安保体制を考えるために必要な基本的な考え方について

講義していただきます。伊藤先生、よろしくお願いします。

 

伊藤先生

「はい、よろしくお願いします。さて、ではまず最初に現代の国際体制の基礎である

「ウェストファリア・システム」について説明します。ウェストファリア・システムと

は、国際社会のバランスは各国家の国益を最優先にした行動で維持されるという考えで

。このシステムでは、軍事力が国際社会のバランス維持において最も効果的と考えら

れました。」

 

  ―この、ウェストファリア・システムの考え方が、国益を求めて各国が軍事力と

経済力を背景に領土拡大を進めるという18世紀後半から20世紀の“帝国主義”を

進めたということですか?

 

「そうです。そうして、世界は、第一次・第二次世界大戦を経験しました。

この大戦の経験は、国際社会に「ポスト・ウエストファリア」の国際政治の必要性を

感じさせました。

そこで、第一次世界大戦1928年パリ不戦条約で「侵略戦争の違法化」が

明記され、第二次世界大戦後には「集団安全保障」の考え方が登場しました。

それが1945年の国際連合憲章第7章第51です。」

 

 ―今回の安保法案でもこの国連憲章第51条は、よく話題になっていますよね?

でも「集団安全保障」ではなくて「集団的自衛権」と言ってるんじゃないですか???

 

「いいところに気づきましたね。「集団安全保障」と「集団的自衛権」は

異なる考え方です

集団安全保障とは、侵略国の行為に対して国際社会が連携して行動すること、

つまり国連軍を派遣することです。

これに対して国連憲章51条は「集団的自衛権」についても定めています。

集団的自衛権は、同盟国が侵略を受けた際に、その防衛に加わることです。

国連憲章集団的自衛権の行使を「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に

必要な措置をとるまでの間」という制限付きで認めています。

 

 ―つまり、国連憲章は各国の個別的・集団的自衛権の行使は認めているけれども、

もちろん侵略戦争の場合はダメ、で、自衛戦争でも集団安全保障が機能するまでの

時限的なもの。つまり、国連による集団安全保障の枠内に各国の自衛権を置いている、

ということですね。

 

「その通りです。これが現在の国際社会の基本となる考えです。

ですが、現在はこれまでの予想を超えたスピードで国際社会が変化しています。

グローバリゼーションの進行による“国境”の枠組みのあいまい化、

国家以外の組織活動の活発化(多国籍企業、NGOなど)などです。

これらにより、現在は国家間の関係のみが国際社会を動かす要因では

なくなっています。」

 

 ―紛争が複雑化し、紛争解決の道も軍事力が有効とは言い切れなくなっている…

 

「1945~1989年までの冷戦期、国連による集団安全保障は米ソ対立によって

機能しませんでした。そして、冷戦後初の国際紛争であった1991年の湾岸戦争が、

国際社会において大きな“潮目”となる戦争となりました。

それは、世界で初めて集団安全保障が機能するかもしれないと思われた戦争

だったからです。しかし、国連軍は組織されなかった。

そうして、その後世界は民族対立・宗教対立など新しい紛争に直面していくことに

なります。その中で、1996~1999年に起きたコソボ紛争

これまでの国益第一主義”とは異なる“人道的理由”によって国際社会が紛争に介入した

新しい軍事行動になりました。国際社会に「積極的平和構築戦略」の考え方が

生まれたのです。」

 

 ―う~ん、つまり…これまでは、各国は、ある程度自分に関わりがある戦争を

行ってきた。でも、冷戦後は「人道的・積極的平和」のために先進国が世界の紛争に、積極的に介入するようになったということですか。

悪いことではないような…でもといって、世界中の戦争に先進国が関わって

解決するのかどうか…。とにかく紛争が、開戦の原因においても

関係国の範囲としても関係の仕方でも、いろんな側面でどんどん複雑化

したわけですね。

 

「そうですね。さらに積極的平和の考え方によって新しい「正戦論」が登場して

います。それは、これまでの侵略はダメ、自衛はオッケーだけではない、

人道的介入による戦争です。また、「PMC(private military company)」の拡大も

新しい問題です。これは傭兵です。国家に属す軍人ではなく企業が金で採用して

派遣する兵士たち。彼らは、これまでの「国益」「人道」といった理由で

戦いに加わる兵士ではなく、「金」のために戦う人々です。」

「こうした国際情勢の変化の中で日本は「国際貢献」における自衛隊の関わりを

変化させてきました。

きっかけは1991年湾岸戦争での国際貢献コンプレックスです。

1992年にはPKO協力法を制定し、自衛隊の海外派遣に道を開き、1997年には

日米新ガイドラインによって“周辺地域の紛争”での米軍後方支援を解禁し、

1999年周辺事態法でこれを立法化しました。

また、2003年の武力攻撃事態法は有事(戦争)の際の自衛隊活動円滑化のために

民間コントロールを認める法律です。戦時は必ず、民間人の戦争参加を

必要とします。憲法やその下で制定されたに法律では認められない行為も戦時には

必要になります。

そこで、法治国家の例外が必要になるのです。

この法律はそれを可能としたものです。」

 

 ―安保法案は、こうした25年に及ぶ日本の安全保障体制の変化の延長線上にあるものなんですね…

 

「では、最後に今後の日本の選択肢について考えてみましょう。国際社会における安全保障についての考え方を図で表わすと図の通りになります。

f:id:TMSNCU:20150909222955j:plain

 

安保法案は「コスモポリタン戦争」への積極的介入の道を

開いていこうというものです。

現在の安保法案に対する反対運動の多くは「違憲・非立憲」。

もともとの「軍事同盟国益主義」に対抗する考えは出てきてないように思います。

安保法案はこのまま行けば可決される可能性が高いでしょう。

では、その後どうしていくのか。日本国憲法はその前文で「平和を維持し、

専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会に

おいて、名誉ある地位を占めたいと思う。」と述べています。

21世紀のグローバルな平和構想が今問われているのではないかと思います。

 

―ありがとうございました。現在の安保法案は、日本がここまで四半世紀にわたり

進んできた安全保障体制の方向線上にあるんですね。

私たちは普段、自分たちの生活に追われて、安全保障についても、国際貢献に

ついても、身近な地域の問題についてもなかなか関心を持ち続けることができません。

声の大きな方からの説明だけを鵜のみにして、なんとなく自分を納得させている

ことも多いです。

でも、今回の安保法案をめぐり、さまざまな世代の方のさまざまな

側面からの“声”が発信されるようになりました。

この経験を生かし、日常の生活とともに、日常の側面以外の視点や未来を思い描く

視点など、物事を複眼的な視点から考え続けていき、

時には発信・行動していくことの大切さを忘れないようにしていきたいです。

 

 

学習会のまとめ、如何でしたでしょうか。

コスモポリタン平和主義」、それは“夢物語”かもしれません。

でも、日本は69年前、「平和主義」という一つの“夢”を掲げました。

「無理だ」と笑う人がいるかもしれません。

「非現実的だ」と言われるかもしれません。

それでも、本田はセリエAの10番になった!

目指すべき先が見えてれば、どんなに道は険しくとも、

人はそこに向かっていくことができるのではないのかなと思います。

日本国憲法の掲げる“夢”を、私たちがこれから向かう未来にしたい・・・

私はそう思います。

 

次回の学習会は9月12日(土)10時~

名古屋市立大学山の畑キャンパス1号館409号室(予定)

テーマは「沖縄から安保を考える」で

講師は、阪井芳貴名古屋市立大学教授です。

参加費100円!

学生、一般の方、どなたでも出席していただけます。

ぜひぜひ、ご参加ください。

お菓子を食べながらの気楽な会です!

*今までの学習会のレジュメが欲しい方は、

 学習会時にスタッフまでお申し出ください。

 コピー代はいただきますがお渡しできます!

 

 

                     

報告:『「安保法案」について国会議員に聞くーあいち若者の集いー』2015/09/05

9月5日(土)、栄にある名古屋YWCAにて『「安保法案」について国会議員に聞く 

―あいち若者の集い―』が開催されました。

地元有名国会議員とともに社民党福島みずほ参議院議員が出席するということで、

半分“ミーハー”気分で参加してきました。

開会3分前に到着すると会場はすでに一杯。

テレビカメラも数台来ていて、注目の高さに驚きました。

そして、最前には制服姿の高校生が!!!

さすが「若者の集い」です、100人ほどが集まる中、半数ほどが

“若者”のような気がしました(これはあくまでも私の主観的意見です)

出席議員は、発言者順で、共産党本村伸子衆議院議員

維新の党牧義夫衆議院議員

社民党福島みずほ参議院議員

民主党山尾しおり衆議院議員

民主党大塚耕平参議院議員です。

与党の自民党公明党にも出席をお願いしたそうですが、「時間の都合」で

欠席でした。う~ん、残念。

ですが、参加議員はすべて有力議員、結構テレビで見る人ばかりです。

みなさん、姿勢がよく、はっきりとした声と丁寧なしゃべりで、

それぞれの意見を堂々と述べられていました。

私はもともと「政治家なんて…」という意見には反対で、

比較的政治家に“甘い”方だとは思いますが、

とにかくみなさんすごいな、と思いました!

各議員10分間でそれぞれの意見を述べ、その後フロアと

ツイッター(さすが若者です!!)からの質疑が15分。

各議員の発言の詳細について概要のみ報告します。

本村議員は、被爆2世という生い立ちからの戦争への思いを

イラク戦争と関連付けて話してくれました。

愛知県には自衛隊小牧基地があり、イラク戦争への自衛隊派遣、

アメリカ軍輸送に大きく関わっていること。

愛知は戦争と無関係ではないことを話されました。

牧議員は、ちょうど維新の党が安保や国会とは違うところで

話題になっている時期なので、維新の考えを伝えるということで

パンフレットを配布しての説明でした。

日本が日本自身で日中・太平洋戦争の反省をしてこなかったことの問題点から、

アメリカ志向の政策へ疑問を提示しておられました。

福島議員は元気いっぱい、テレビで見る通りでした。

安保だけではなく、派遣法改正などの重要法案の審議が

今国会ではなされていること、今回の安保法案がどのようにこれまでのものと

異なるのかについて明快に話されました。

山尾議員もパワフル一杯。

確か子どもの時代ミュージカル『アニー』で主役をやり、

前職は検察官という異色の政治家。

結構な迫力です。そして、安保法案がもし成立したらどうなるのか、

司法試験では、教育現場ではどのように教えられるのか。

最初は違和感を持つ人々も数年後には慣れてくる、そんな未来から

問題を指摘してくれました。

大塚議員は、「集団的自衛権」は「アメリカの防衛をすること」、

専守防衛」が国際社会で定着していること、政権交代の重要性など、

明快な定義と政治に対する政治家・有権者のあり方についてまで話されました。

フロアからは高校性、大学生の積極的な質疑があり、若者の力を感じさせられる

集いでもありました。

帰りに受付で大学生の人に我々TMS-NCU」を宣伝してきました。

「複眼的に考える」ための「複眼的」な視点からの学び…いい企画だと思うけどな。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第3回学習会 9月12日(土)10:00~ 

名市大滝子キャンパス人間文化研究科・409教室にて

「沖縄から安保を考える」              

出席者募集中!学生・社会人問わず出席していただけます。

お待ちしています。

問い合わせさき:tmsncu@gmail.com

 

座談会のご紹介

TMS-NCU 複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会です。

 

私たちは、学習会の後に座談会と称して

 

学習会で学んだこと分らなかったことなどを

 

参加者間で話し合い、深めていく時間をもっています。

 

堅苦しいものではなく、お菓子を食べながら気軽に意見や質問を言い合える

 

楽しい時間です。次回第3回学習会の後13:00からも

 

1時間程度の座談会を予定しています。

 

座談会って何???というご質問も多いので

 

前回の学習会の後に行った座談会の様子を

 

少しだけご紹介します。

 

第2回学習会「国際情勢から安保関連法案を考える」(8月15日)

 

・・・第2部座談会・・・

 

A:結局、安倍政権が「軍事同盟国益主義」を進めているのはなんでなんだろう?

 

B:まず、安倍政権自体が「集団的自衛権」に対する認識が間違っていると思う。

 

集団的自衛権」と「集団安全保障」の違いが分かっていないと思うな。

 

*註

集団的自衛権」同盟関係にある他国が武力攻撃を受けた時に、 

 

その武力攻撃を自国の安全に対する脅威とみなして、実力で阻止する権利。

 

「集団安全保障」対立関係にある国家をも含めて、

 

関係国すべてがその体制に参加し、相互に武力によって攻撃しないことを約束し、

 

違反国には集団で対処し、相互に平和のために安全を保障すること。

 

国際連盟国際連合の基本原理。

 

(『政治・経済用語集』山川出版社より)

 

 

A:“普通の中流国”でいいと思うけどな~

 

C:現状の“恩恵”は見えないからではないでしょうか?

 

ちなみに、「コスモポリタン平和主義」についてが、

 

まだ理解しきれていないな~?

 

*註:

縦軸に「非軍事・軍事」、横軸に「国益・地球的価値」を置いた

 

四象限グラフのうち、右上に位置する「非軍事・地球的価値」をもとめる立場

 

・「軍事・地球的価値」=コスモポリタン戦争、

 

「軍事・国益」=「伝統的国益主義」、

 

「非軍事・国益」=一国平和主義

 

・現在の安倍政権は「軍事・国益地球的価値(中間)」=軍事同盟国益主義 

 

(第2回学習会 講演資料より)

 

D:う~ん、それは…完全に軍事力をなくす、という場合だけを指すのではなく、

 

極力軍事力に頼らない在り方を世界に広げていく過程も指しているのではないかな?

 

それでさ、これまでの「国益」重視の考え方が「地球的価値」重視に

 

移行していく、ことについてはどう考える??

 

A:(どんな立場であれ)その流れは止められないのでは?

 

これだけ何に関してもグローバルな展開が進んでいっていると・・・

 

D:じゃあ、「人道的介入」についてはどう??「人道的介入」によっては起こる問題は多そうだけど・・・

 

C:そうだよね。自分たちの正義で介入した後はどうなるのか、

 

どうするのかって言う問題もあると思う。

 

その後も、世界が共同して、紛争地域の平和を守り続ける??

 

B:国連が今以上に「公的正義」に向かってい進む体制になっていけば

 

いいと思うんだけどね。

 

今の状態では「コスモポリタン平和主義」の実現可能性はまだ低いような気がするな。

 

E:「地球的価値」とは何?誰が決めるの?

 

D:人権でしょう。

 

B:そこから派生するものも含まれると思うな。

 

A:少し話題が変わるけど、今の安保法案をめぐる動きについてはどう思う?

 

こういった若者の動きは近年にはなかったと思う。

 

B:この動きは法案がどうなろうと、経験として今後や未来の行動に

 

つながる経験になったと思う・・・

 

 

 

***いかがでしたでしょうか?座談会の雰囲気を掴んで頂けたでしょうか。

 

学部生・院生・社会人など多様な人々による率直な座談会でした。

 

また次回が楽しみです。

 

日にち:2015年9月12日(土)

 

第1部:10時~12時

 

テーマ:「沖縄から安保を考える」

 

講師:阪井芳貴先生(名古屋市立大学教授)

 

第2部:13時~14時

 

場所:名古屋市立大学山の畑キャンパス1号館409(予定)

 

参加希望の方は、メールで申込みをお願いいたします。

 

tmsncu@gmail.com 竹内まで

 

 

皆様のご参加、お待ちしています。

 

 

 

第3回学習会のお知らせ

TMS-NCU(複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会)では、

以下の通り第3回学習会を行います。

みなさまのご参加をお待ちしています!

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日 時:     2015年9月12日(土) 10:00~12:00

講 師:    名古屋市立大学教授 阪井芳貴 先生(専門:沖縄学)

テーマ: 「沖縄から安保を考える」

場 所: 名古屋市立大学山の畑キャンパス1号館409号室(予定)

参加費: 100円

 第1回学習会は憲法から

第2回学習会は国際情勢から安保法制について考えました。

そして第3回学習会は沖縄からの視点で安保法制を考えます。

肩肘を張らずに専門家の話を身近に聴けるチャンスです。

一般の方の参加も大歓迎です。

参加ご希望の方は、できましたらご予約お願いします。

連絡先:tmsncu@gmail.com 竹内まで

大河内先生に聞く 教えて!憲法 (第1回学習会まとめ)

2015年7月27日に行った第1回学習会の講義内容をわかりやすく

対話形式にまとめなおしたものです。

講師は名古屋大学の大河内美紀先生です。

聞き手は、TMS-NCU世話人の竹内佐和子です。

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◆「立憲主義」ってなに?

 

 竹内(竹):

先生、こんにちは。今日は「憲法と安保関連法案」について

お話をお聞きしたいと思います。

まず今回の安保関連法案で話題になっている「立憲主義」についてです。

ずばり「立憲主義」ってなんですか?

 

大河内先生(大):

よろしくお願いします。

立憲主義は「法によって権力を縛る」という考え方を指します。

この考えは「中世立憲主義」として成立しました。

これに対し、現代の立憲主義は「近代立憲主義」で、

さらにそこに「個人の尊重」の価値を含みます。

それは、「近代国民国家」の登場によって、

国家から個人の権利・自由を人権として保障することが

必要になったために生まれた考えです。

フランス人権宣言にその特徴が示されています。

 

 

竹:つまり、「近代立憲主義」は、憲法の条文に関わりなく、

公権力による人権保障が確保されなくてはいけないという考えですか?

 

 

大:その通りです。

さらに、人権保障を確保するためには、権力分立国民主権

必要になります。

それらを含んで「近代立憲主義」といいます。

 

 

憲法のなかの「義務」

 

竹:ということは、憲法を守る義務を負うのは公権力ということですね。

では、憲法第3章の「国民の義務(教育・勤労・納税)」は

どうなりますか?

自民党憲法改正案でも国民が憲法を守る義務が書かれています。

 

 

大:現憲法には、憲法を守るべき人(名宛人(なあてにん))として

天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員」(99条)が

示されています。

つまり、国民は憲法を守る側ではなく、守らせる側なのです

 そして、第3章の「国民の義務」は、

国に対する義務ではなく国民の了解のもとで成り立つものと考えられます。

 

立憲主義と安保関連法案

 

竹:わかりました。

では、現在の安保関連法案はこの「立憲主義」に照らすと

どのような問題がありますか?

 

大:内容の問題として「違憲」という問題点が指摘できますが、それ以前の問題として、今回の法案の提議の仕方等が「非立憲」という問題をもっています。

つまり、国民主権の国家で、憲法を尊重しなくてはいけないはずの

政府の行動が憲法の精神に反しているのです。

 

竹:憲法改正条項のハードルを下げようとしたり、

閣議決定自衛権の解釈を変更したり、国民がわかっていなくても

法案採決をしたりといったことですね。

 

 

憲法解釈の変更

 

竹:ですが、これまでも政府が憲法解釈を変更することはありました。

それとは違いますか?

 

大:違います。

確かにこれまでも憲法解釈の変更は行われてきました。

また、行政権の執行のためには適切な憲法解釈は必要でもあります。

しかし一方で、国会等の議論を経て既に定着している解釈の変更は

難しいというのが通説です。

つまり、9条に関しては「我が国が自国の平和と安全を維持し、

その存立を全うするために必要な自衛のための必要最小限度の実力」(1972年)

という定着した“枠”が存在すると考えられています。

今回の法案はこの“枠”を変更する内容を含んでいるのです。

 

 

◆ 安保関連法案は“枠”の逸脱

 

大:ただし、政府も“枠”の変更が難しいことは自覚し、

現在安倍政権は、“枠”の「変更ではない」という立場をとっています。

 

竹:つまり、安保関連法案は「日本の存立を全うするための

自衛のための必要最小限の措置」であるということですね。

う~ん、そうかなあ??

*存立:成り立っていくこと。たちゆくこと。

 見坊豪紀他編,2002,『三省堂国語辞典第五版』,三省堂

 

大:ポイントは「自衛のための必要最小限」という部分です。

この“枠”の結果、これまで自衛隊の「海外出動」は「違憲

してきました。

 とはいえ、自衛隊の海外派遣は実際にはある。

ではそこで、憲法解釈の“枠”を保持するためにPKO協力法制定の際どうしたのか?

それが、他国の「武力行使と一体化しない」論の登場です。

つまり、今回の周辺事態安全確保法改正・重要影響事態法案と自衛隊法改正による

武力行使と一体化しない」要件の緩和は、

これまでの9条の”枠を維持するために形成した

「論」の排除”考えられます。

 

竹:つまり今回の法案の問題点は、これまで形成してきた「自衛」の“枠”を

超えてしまう内容だということですね。

もう一つ、武力攻撃事態法の改正による「武力行使の新3要件」は

集団的自衛権行使のための要件の改正と考えられていますよね?

 

大:そうです。「我が国の存立が脅かされ」ている状態に

「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」た事態が

加えられました。

これは集団的自衛権の行使に当たります。

しかし、そもそも現憲法9条集団的自衛権を認めていません。

集団的自衛権の行使は明らかな憲法違反

と言えます。                                  

 

◆ まとめ

 

竹:まとめると、今回の安保法案をめぐる憲法問題は、

 

①そもそも憲法9条によって集団的自衛権は認められていないにも関わらず、

 それを可能とする内容を含んでいるという点。

 

②これまでの憲法解釈によって定着してきた「自衛」の“枠”である

 他国の「武力行使と一体化しない」論を排除している点。

 

③法案成立に向けた政府の非立憲的態度と行為

 

この3点が中心ですね。

安全保障についての考えは、人それぞれ違っていると思います。

ですが、国民主権や人権尊重といった

現在の国家体制の根本となる考えを否定する可能性をもつのが、

現法案の成立過程だとわかりました。

 

大:今「立憲主義の危機」が言われています。

主権者としての国民のあり方が大切です。

 

 

竹:ありがとうございました。

一人ひとりの力は小さくても、国民一人一人の行動が問われているのだということが

わかりました!

 

 大河内(おおこうち)美紀(みのり)先生:名古屋大学教授 (憲法学)。

主要著作に『憲法解釈方法論の再構成――合衆国における原意主義論争を素材として』

日本評論社、2010年、 など。 

 

*TMS-NCU(複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会)主催の学習会(2015/7/27)での講義内容を対話形式に纏め直したものです。大河内先生には、憲法研究者〈全国出前講師団〉として講師を引き受けて下さり、今般の学習会を行うことができました。感謝申し上げます。(文責:竹内佐和子)

第2回学習会を行いました。

本日、8月15日10時からTMS-NCUの第2回学習会を行いました。

 

名古屋市立大学教授 伊藤恭彦先生を講師に迎え

 

「21世紀の国際社会と安全保障をめぐる対抗構想」というテーマで

 

お話いただきました。

 

第1回学習会では、憲法から安保関連法案を考えましたが

 

第2回の今回は国際情勢からのアプローチで安保関連法案を考えるという試みです。

 

国際社会の中での日本の選択肢についてのお話や、それを分りやすい形で

 

示していただいた四象限図は新鮮で、参加者の関心が多くあつまりました。

 

質疑応答も活発に行われ、有意義な学習会となりました。

 

午後からは、座談会と銘打って午前中の学習会の整理をしたり

 

学習会により更に生まれた疑問点などについて気軽な形で話し合ったり

 

しながら、参加者間で議論を深めました。

 

第3回の学習会は、9月12日(土)10時からを予定しています。

 

講師、テーマが決まり次第、当ブログで告知します。

 

当会は、学生有志が企画運営を行っていますが、どなたでも

 

参加していただけます。第2回学習会の参加者の半分以上は社会人でした。

 

様々な立場の方の参加が、会を充実させます。

 

みなさまの参加をお待ちしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2回学習会のお知らせ

TMS-NCU(複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会)では、

以下の通り第2回学習会を企画しています。

 

日 時:     2015年8月15日(日) 10:00~12:00

講 師:    名古屋市立大学教授 伊藤恭彦 先生(専門:政治哲学)

テーマ: 「国際情勢から安保関連法案を考える」

場 所: 名古屋市立大学山の畑キャンパス1号館409号室

参加費: 100円

 

肩肘を張らずに専門家の話を身近に聴けるチャンスです。

一般の方の参加も大歓迎です。

参加ご希望の方は、ご連絡お願いします。

連絡先:tmsncu@gmail.com 竹内まで