TMSNCUのブログ

「複眼的に安保法制を考える名市大院生有志の会」のブログです。

学習会報告:「21世紀の国際社会と安全保障をめぐる対抗構想」

2015年8月15日に開催したTMSNCU 第2回学習会を報告します。

この学習会では、国際情勢から安保体制を考えようということで

名古屋市立大学教授 伊藤恭彦先生(政治学)に

講師をお願いしました。

先生が用意してくださったテーマは

「21世紀の国際社会と安全保障をめぐる対抗構想」

1時間強の講義とそれに対する質疑応答ということで

学習会は進みました。

(1時間強の話の要点を抜き出し、わかりやすくするために対話形式にリライト

しました。)

 

 

今日は、伊藤先生から、安保体制を考えるために必要な基本的な考え方について

講義していただきます。伊藤先生、よろしくお願いします。

 

伊藤先生

「はい、よろしくお願いします。さて、ではまず最初に現代の国際体制の基礎である

「ウェストファリア・システム」について説明します。ウェストファリア・システムと

は、国際社会のバランスは各国家の国益を最優先にした行動で維持されるという考えで

。このシステムでは、軍事力が国際社会のバランス維持において最も効果的と考えら

れました。」

 

  ―この、ウェストファリア・システムの考え方が、国益を求めて各国が軍事力と

経済力を背景に領土拡大を進めるという18世紀後半から20世紀の“帝国主義”を

進めたということですか?

 

「そうです。そうして、世界は、第一次・第二次世界大戦を経験しました。

この大戦の経験は、国際社会に「ポスト・ウエストファリア」の国際政治の必要性を

感じさせました。

そこで、第一次世界大戦1928年パリ不戦条約で「侵略戦争の違法化」が

明記され、第二次世界大戦後には「集団安全保障」の考え方が登場しました。

それが1945年の国際連合憲章第7章第51です。」

 

 ―今回の安保法案でもこの国連憲章第51条は、よく話題になっていますよね?

でも「集団安全保障」ではなくて「集団的自衛権」と言ってるんじゃないですか???

 

「いいところに気づきましたね。「集団安全保障」と「集団的自衛権」は

異なる考え方です

集団安全保障とは、侵略国の行為に対して国際社会が連携して行動すること、

つまり国連軍を派遣することです。

これに対して国連憲章51条は「集団的自衛権」についても定めています。

集団的自衛権は、同盟国が侵略を受けた際に、その防衛に加わることです。

国連憲章集団的自衛権の行使を「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に

必要な措置をとるまでの間」という制限付きで認めています。

 

 ―つまり、国連憲章は各国の個別的・集団的自衛権の行使は認めているけれども、

もちろん侵略戦争の場合はダメ、で、自衛戦争でも集団安全保障が機能するまでの

時限的なもの。つまり、国連による集団安全保障の枠内に各国の自衛権を置いている、

ということですね。

 

「その通りです。これが現在の国際社会の基本となる考えです。

ですが、現在はこれまでの予想を超えたスピードで国際社会が変化しています。

グローバリゼーションの進行による“国境”の枠組みのあいまい化、

国家以外の組織活動の活発化(多国籍企業、NGOなど)などです。

これらにより、現在は国家間の関係のみが国際社会を動かす要因では

なくなっています。」

 

 ―紛争が複雑化し、紛争解決の道も軍事力が有効とは言い切れなくなっている…

 

「1945~1989年までの冷戦期、国連による集団安全保障は米ソ対立によって

機能しませんでした。そして、冷戦後初の国際紛争であった1991年の湾岸戦争が、

国際社会において大きな“潮目”となる戦争となりました。

それは、世界で初めて集団安全保障が機能するかもしれないと思われた戦争

だったからです。しかし、国連軍は組織されなかった。

そうして、その後世界は民族対立・宗教対立など新しい紛争に直面していくことに

なります。その中で、1996~1999年に起きたコソボ紛争

これまでの国益第一主義”とは異なる“人道的理由”によって国際社会が紛争に介入した

新しい軍事行動になりました。国際社会に「積極的平和構築戦略」の考え方が

生まれたのです。」

 

 ―う~ん、つまり…これまでは、各国は、ある程度自分に関わりがある戦争を

行ってきた。でも、冷戦後は「人道的・積極的平和」のために先進国が世界の紛争に、積極的に介入するようになったということですか。

悪いことではないような…でもといって、世界中の戦争に先進国が関わって

解決するのかどうか…。とにかく紛争が、開戦の原因においても

関係国の範囲としても関係の仕方でも、いろんな側面でどんどん複雑化

したわけですね。

 

「そうですね。さらに積極的平和の考え方によって新しい「正戦論」が登場して

います。それは、これまでの侵略はダメ、自衛はオッケーだけではない、

人道的介入による戦争です。また、「PMC(private military company)」の拡大も

新しい問題です。これは傭兵です。国家に属す軍人ではなく企業が金で採用して

派遣する兵士たち。彼らは、これまでの「国益」「人道」といった理由で

戦いに加わる兵士ではなく、「金」のために戦う人々です。」

「こうした国際情勢の変化の中で日本は「国際貢献」における自衛隊の関わりを

変化させてきました。

きっかけは1991年湾岸戦争での国際貢献コンプレックスです。

1992年にはPKO協力法を制定し、自衛隊の海外派遣に道を開き、1997年には

日米新ガイドラインによって“周辺地域の紛争”での米軍後方支援を解禁し、

1999年周辺事態法でこれを立法化しました。

また、2003年の武力攻撃事態法は有事(戦争)の際の自衛隊活動円滑化のために

民間コントロールを認める法律です。戦時は必ず、民間人の戦争参加を

必要とします。憲法やその下で制定されたに法律では認められない行為も戦時には

必要になります。

そこで、法治国家の例外が必要になるのです。

この法律はそれを可能としたものです。」

 

 ―安保法案は、こうした25年に及ぶ日本の安全保障体制の変化の延長線上にあるものなんですね…

 

「では、最後に今後の日本の選択肢について考えてみましょう。国際社会における安全保障についての考え方を図で表わすと図の通りになります。

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安保法案は「コスモポリタン戦争」への積極的介入の道を

開いていこうというものです。

現在の安保法案に対する反対運動の多くは「違憲・非立憲」。

もともとの「軍事同盟国益主義」に対抗する考えは出てきてないように思います。

安保法案はこのまま行けば可決される可能性が高いでしょう。

では、その後どうしていくのか。日本国憲法はその前文で「平和を維持し、

専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会に

おいて、名誉ある地位を占めたいと思う。」と述べています。

21世紀のグローバルな平和構想が今問われているのではないかと思います。

 

―ありがとうございました。現在の安保法案は、日本がここまで四半世紀にわたり

進んできた安全保障体制の方向線上にあるんですね。

私たちは普段、自分たちの生活に追われて、安全保障についても、国際貢献に

ついても、身近な地域の問題についてもなかなか関心を持ち続けることができません。

声の大きな方からの説明だけを鵜のみにして、なんとなく自分を納得させている

ことも多いです。

でも、今回の安保法案をめぐり、さまざまな世代の方のさまざまな

側面からの“声”が発信されるようになりました。

この経験を生かし、日常の生活とともに、日常の側面以外の視点や未来を思い描く

視点など、物事を複眼的な視点から考え続けていき、

時には発信・行動していくことの大切さを忘れないようにしていきたいです。

 

 

学習会のまとめ、如何でしたでしょうか。

コスモポリタン平和主義」、それは“夢物語”かもしれません。

でも、日本は69年前、「平和主義」という一つの“夢”を掲げました。

「無理だ」と笑う人がいるかもしれません。

「非現実的だ」と言われるかもしれません。

それでも、本田はセリエAの10番になった!

目指すべき先が見えてれば、どんなに道は険しくとも、

人はそこに向かっていくことができるのではないのかなと思います。

日本国憲法の掲げる“夢”を、私たちがこれから向かう未来にしたい・・・

私はそう思います。

 

次回の学習会は9月12日(土)10時~

名古屋市立大学山の畑キャンパス1号館409号室(予定)

テーマは「沖縄から安保を考える」で

講師は、阪井芳貴名古屋市立大学教授です。

参加費100円!

学生、一般の方、どなたでも出席していただけます。

ぜひぜひ、ご参加ください。

お菓子を食べながらの気楽な会です!

*今までの学習会のレジュメが欲しい方は、

 学習会時にスタッフまでお申し出ください。

 コピー代はいただきますがお渡しできます!